目黒公郎賞「実がなる木と小さな池のある小さい家」

  目黒公郎賞「実がなる木と小さな池のある小さい家」

篠田望さんコメント

愛知県名古屋市からやってまいりました篠田と申します。

アイデアのスタートとして、「住宅のフェーズフリーチェックリスト」を作成したらどんな項目が考えられるか、またそれを住まい手にどんな風に説明したら伝わるのかを考えてみました。いくつか項目を挙げて、それを並べるというコンセプトになりました。

丁度この応募期間の時に放送大学で、目黒先生が講義をされている「都市と防災」という講座を聞きました。その時、物語を作ってひとつずつどんなことが起こるかを考えイマジネーションしてみる、ということを学びました。早速その方法を試みてみました。災害時、なんとか生き残ったけれど一か月たっても二か月たってもずっと片付けをしている、そういう物語になりました。そこで、家に一人でいる女性が、片付けをして、復旧がやりやすい住宅とはどうなるかと考えました。やはり傷みにくい家、そして傷んだところがわかる家、そして修理しやすい家になるのではないかと思い、具体的に計画の中に入れて行きました。

最初は作品の条件を既存住宅の改修で考えていましたが、既存住宅は敷地の条件もいいし、昭和の始めのころの家は、それだけでフェーズフリー住宅なのではと思い、条件が悪い、間口が狭く南北に長い敷地を設定しました。

タイトルは「実がなる木と小さな池のある小さい家」です。自分のうちに実際にサクランボやブルーベリーなどの植物を植えていますと、鳥がいっぱいやってきます。そして鳥がいっぱいくると害虫がいなくなり、そうこうするうちに、名古屋では絶滅危惧種のニホンアカガエルまでやってくるようになりました。専門家に写真を見せて伺ったところ「これはほんとのニホンアカガエルだ」と。そして、池を作って生息できるかどうかやってごらんなさいと言われました。雨水だけが入るような小さい池を作ってみたら、色々な生物がやってきて、小蠅や蚊などもいなくなりました。

平常時に野生の生き物が集まって来られるような環境をつくると、自分でも気を付けて殺虫剤や除草剤などを使わない暮らしができるようになり、家のことを前よりもっと気に掛けるようになりました。いつもいつも自分のうちを見ていると手入れもするし、手入れをすれば道具も揃います。結果的に、災害時に復旧が自分でも出来る家になると考えました。以上です。ありがとうございました。

目黒先生講評

篠田さんが私の放送大学の授業を聞いてくださっていたというのを初めて伺いました。

私達「防災対策」と一言でよく言いますけれど、実は、事前の三つの対策と事後の四つの対策を合わせたものなのです。事前の、まずは「被害抑止力」。これは、構造物の性能アップ、耐震性を高くするとかです。洪水なら、堤防を高くです。他には危険な場所を避けて住むなど土地の選択です。その次が事前の備えです。これを私達は「被害軽減力」と呼びます。対応の仕組みをつくる、事前に復旧復興戦略を考えておく、或いはマニュアルを用意する、日ごろから訓練するとかです。その次が、直前の「予知や警報」。これが三つの事前対策です。そして、災害発生。まずやるのは、「被害評価」です。どこでどんな被害が発生したかをきちんと評価する。その次が、頭に緊急と付けることもありますが、「災害対応」です。これの主目的は二次災害の防止と人命救助です。その次に、「災害対応」には被災したそのものの回復というのは入っていないので、「復旧・復興」です。「復旧」というのは、日本語では元通りするだけです。災害というのは起こってほしくないけれど、起こった危険を考えれば、その地域や物件が、そもそも災害があろうがなかろうが抱えていた問題を、時間をギュッと縮めてより甚だしく見せつける、こういう特徴があります。災害後、以前よりもっといい状態にしましょう、これが「復興」です。ビルドアップベター。事前の三つと、事後の四つというフェーズで、作品を見せていただきました。この作品が一番多くのフェーズに対して、対応するアイデアを網羅し、いろいろ考えてくださっているなと思い選出しました。

いいことばかり言うのが評価ではないので、もう少し工夫があるといいなと思った事をお話しします。これは全ての作品に対して言えることですが、自分が地震の後災害の後、生き残ることが前提になっている作品や、まったく怪我もしないということが前提になっている作品ばかりでした。この点はもうひと工夫があるといいです。自分たちは健常者だと思っています。災害時の要援護者は、お年寄り、赤ちゃん、妊婦さん、日常的にハンデのある方、或いは日本語によるコミュニケーション能力の低い外国人などです。でも皆さん、メガネやコンタクトをしている方が、災害時そのメガネやコンタクトが紛失したとします、被災家屋のなかに見つけることは困難です。また、何か上から物が落ちてきて怪我をし、足を挫いたり、ガラスを踏んだ。その瞬間に健常者である我々が、災害時要援護者になります。そういう状況下を想定し、提案することがどれ程重要なのかと考えます。通常、健常者とはエイブルドパーソンと言います、何も問題がなくできる人です。そしてハンデのある方を、ディスエイブルドパーソンと言います。しかし私は、健常者のことを、ディスエイブルドの前にもう一つ否定助詞を付けて、アンディスエイブルドと言っています。今たまたま、テンポラリーにおいてディスエイブルドではない人、と捉えると見えてくる世界がずいぶん変わってきます。今後、フェーズフリー住宅の新しい提案をされるなかで、そういった考えも入れていただくと、さらにいいものになるように私は感じました。

まとめとなりますが、防災対策七つのフェーズのそれぞれに、一番多くの提案がなされていたということで、目黒賞として選ばせていただきました。おめでとうございます。

パネルディスカッションにて風祭講評

(篠田案の分析グラフを見ながら)篠田さんの作品は、環境共生的なところと、自立した生活ができるところが良いです。ご自身でもおっしゃっていただいたように、かなり細かく分析をされているので災害時も、早期警報から復旧復興までどのフェーズにも対応できるような住宅になっているのではないかと思います。私達がフェーズフリー住宅ってどんなものだろうって考えたときの提案要素がすごくたくさん詰まっていて、見ていても楽しい作品でした。

協会メンバーコメント

平常時の中で住宅に気を配ることで災害時に住宅の状態が分かり、復旧が自分でもできるようにつながっていく。環境と共生しながら生き生きとした日常があってこそ成り立つフェーズフリー住宅です。細やかな視点がフェーズの各段階に随所に提案されていました。