三井所清典賞「衣替えが見える住宅」

  三井所清典賞「衣替えが見える住宅」

前田直哉さんコメント

名古屋市立大学の前田直哉と申します。本日はこのような機会を与えていただきありがとうございます。

僕が最初にこのフェーズフリーというテーマを考えたとき、災害の際に水や食料は支給されたとしても、娯楽や心が安らぐ場所はなかなか提供されないのではないかと思い、そこから考えを始めました。

今回のこの住宅はシェアハウスで考えていて、普段は住民同士のプライベートが確保されていることと、住民同士のコミュニケーションが取れることを大事に考えました。そこに「フェーズフリー」の概念を加えることを目的としたとき、地域や隣の人も集まれるような住宅が、フェーズフリー住宅なのではないかと考えました。

ダイヤグラムですが、まず住棟を四つ用意して、住棟の中に住民の生活が広がるのですが、住棟の周りにも住人の趣味が滲み出て、住民同士のコミュニケーションのツールとなると同時に、災害時には地域の人や友人などが集まり、それを娯楽として享受した生活ができると考えました。普段はボリュームの中だけだが、災害時には1階部分を半プライベートな空間として全部開放し、住人の生活圏を2階に上げることによって、1階を集会所みたいにできる、といった提案です。以上です、ありがとうございました。

三井所先生講評

前田君の今の説明にありましたように、きちんと個の生活が確立している一方、キッチン或いはテーブルを共有して料理を食べ、飲んで、語り合って、或いは料理を共に作り、といったことができるスペースが1階にある。

これは普段から自分の生活だけでは無く、他人と一緒に生活をし、開いた生活ができ、大変重要な精神というかマインドが培われ、セミプライベートゾーンができています。その伏線となるのが、ときどき外から仲間を呼んできて、また仲間が増えていくこと、と言うこともできるでしょう。

とても豊かな日常生活ができて、普通の家に住んでいる以上に豊かな人間に成長するだろう、という風に理解をしました。それが災害時に、これまで付き合いのなかった人まで含めて入ってくるという可能性もあるが、普段から醸成していた共生、共に生きる精神が、その人たちを迎え入れることができる。迎え入れられた人たちも、楽しみを発見する生活ができる。とても素晴らしい提案だと思いました。建築の技術というよりはその概念を高く評価して、今回の私の賞といたしました。

「セミプライベートゾーンが、災害時にセミパブリックゾーンに転化する」というキーフレーズを考えましたので、追加しておきます。以上です。

パネルディスカッションにて風祭講評

こちらの作品については、先ほど三井所先生がお話しされていた「セミプライベートな空間がセミパブリックな空間になる」とのコメントがとてもいいと思いました。この作品はシェアハウスで計画されているのですが、その2階がプライベートな空間で、この部分だけは、自分たちしか使えないスペースになっています。

コミュニティー → 中間領域 → それを実現する具体的な提案としての2重構造が、普段の価値としてきちんとクオリティオブライフを上げており、災害時の「被害評価」「災害対応」「復旧・復興」にとても効果的に提案できているのが評価のポイントです。

中間領域の部分が自由で可変性が高く、パッと見はどこからどこまでどうなっているのか…と思うのですが、先生方とお話ししていくうちに、大きな四角の個室とリビング、そのまわりの二重に建具で仕切られている部分を開け閉めすることで、季節によってなど、人が入ってくるエリアが区切られることなどがわかってきました。目黒先生とお話ししているなかで、この外側の空間が連続して街中につながっていくと、街中フェーズフリーみたいなものにつながる可能性が見えて、おもしろい作品だと思っています。

協会メンバーコメント

災害時のストレスは平常時では考えられない程だと思われます。
そのストレスが少しでも和らぐよう、個人のテリトリーに合わせて衣替えできる住まいというのは、弱者だけではなく、強者の心にも添うものだと思います。
災害時だけではなく平常時でも参考になる考え方です。