フェーズフリー建築協会賞 3作品

  KoKoに暮らす

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星野尚紀さんコメント

「kokoに暮らす」とタイトルを付けました。それは、個人個人の暮らしと友達の暮らしというふたつの意味を持っています。日常の暮らしを保持しながら、災害時にお互い協力し合いながら地域の力を育む仕掛けを考えました。これを考える上で新築のプランを提示することに抵抗がありましたので、リノベーション、正確にはコンバージョンでの提案としました。老齢化し、家族構成の変化に取り残された住宅を再生しながら、既に形成された地域社会のオーナーの家を借りて、若い世代を迎え入れるという方法を模索しています。単に住宅や集合住宅をつくるのではなく、人間関係を築くための提案にしたいと思いました。
舞台は地方都市にある店舗併用住宅です。40年前に建てられた当時は三世代6人家族でしたが、それが現在一世代2人家族です。そこでシェアハウスを取り入れることで6人の住宅に再生させます。新たな住人は学生をターゲットとし、高齢化が進む住宅地に馴染ませるための仕掛けを考えました。まず既存を生かしシェアハウスとオーナー夫婦、そして店舗がそれぞれ独立しながらも、内部でつながった構造をしています。それが適度に距離を保ちながらも、お互いを意識した生活をするためです。昔の下宿屋の人間関係に似ています。そして、シェアハウスのリビングは、前面道路とセミオープンな関係にあります。これも、地域社会とお互い顔を見せ合うことで、社会の一員として溶け込んでもらうためのものです。この計画は災害時に形体を変えるものではありません。地域社会のつながりをもって災害に備えようとするもので、それは建築でこそできるものだと考えています。適度に世代が混在し、世代間交流がなされている社会こそ、フェーズフリーな社会と考えます。以上です。ありがとうございました。

  木かげと広がる思いやり

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渡辺拓さん・奥田美香子さんコメント

今回私たちは、この地域に住む人と自然とのつながり、そのふたつの視点から考えました。この敷地は想定としては江戸川区にあります。江戸川区は荒川と江戸川の両方にはさまれていて、いわゆる木密地域に、多くの人が暮らしています。
この江戸川区で起こる災害を想定した時、木密地域に火災が発生するであろうということと、二つの河川に挟まれているので、雨が降って水害が発生するだろうというふうに考えました。そういった災害の時に、日本の家は強固に作って災害から守ろうとする流れがあるのですが、それにより自然との共生を阻害してしまっています。

世界を見てみると、例えばバンコクの住宅では、高床にして川の水位が増したときは1階部分が水没するのですが、2階部分で生活しているので基本的には問題は無いというものです。

さらに防火林というものがありまして、これは家を火災から守るといったもので、世界では昔からこういった使い方があります。

で、今回そういったことを提案に当てはめてみました。

1階部分は開放的な空間になっておりまして、普段の暮らしは全部2階に持って行って、1階部分は趣味の部屋として利用できるように考えています。そうすることで、地域のひとから趣味が見えることで、この家に住む人との交流が生まれます。そうしたことから、災害が発生した時に、この家は頼れるであろうという、地域のコミュニケーションができていくのだろうと、考えます。

上のパースは平常時の様子です。趣味の部屋で、茶室をつくったり、映画館をつくったりしています。

下のパースは災害時なのですが、川が氾濫したりすると、1階の仕掛けは全部流れてしまいます。何もない状況になるのですが、ここが地域の人の拠りどころになったり、災害時に小学校が住民の避難場所になることで、子供たちの学び場や遊び場が奪われてしまう際に、小さな青空教室を開いたりできるという提案を行いました。

  風通しのよい家

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廣川大樹さんコメント

私は埼玉県の越谷市というところに住んでいます。この町は某ハウスメーカーによって、今回言う平常時の生活の豊かさを効率的に提供しているような町です。主にこの某ハウスメーカーによる家の骨格というのは基本的には外周です。この背景に対して私は、建ぺい率の分類化というものを提案しています。建ぺい率60%のうちの40%を住空間とし、それ以外をヴォイドとした住宅を提案しています。自分の生活や家の滞在時間を整理してみると、住宅に人がいないときに災害が起きる可能性が高いことがわかりました。それに対して平常時は生活が少しあふれ出したような住宅(三井所先生のコメント)で、災害時は避難のヴォイドとして提案しています。そういったものを都市レベルで提案すると、均一的で少しつまらないような街並みが、生活や暮らしがあふれるような形になって、何となく気分がいいような街並みに変わっていくんじゃないかと思っています。

フェーズフリー建築協会講評 3作品について

フェーズフリー建築協会では、星野さんの「KOKOに暮らす」、渡辺さん・奥田さんの「木かげと広がる思いやり」、廣川さんの「風通しのよい家」の3点を協会賞に選出しました。

星野さんの「KOKOに暮らす」では、大きくは二つの提案がなされています。

ひとつは、家族が減り老夫婦二人となった家を改修してシェアハウスとし、4人の学生と住むというもので、丁寧な現実味のあるプラニングがなされています。普段から近い関係で異世代が暮らすことで、災害時にもお互いの状況をすぐに知り得、協力して被害対応や復旧に当たる関係性ができることが示され、「適度に世代が混在し、健全な世代間交流がなされていることこそ、フェーズフリーな社会である」と星野さんは主張されています。

もう一つは、元々夫婦が営んでいた隣接店舗を再活用しようというものです。店舗は、住宅より敷居が低く、パブリックな空間ながら、プライベート空間に近いボリューム感で、生活に寄り添う存在であるとしています。防犯上の駆け込み場所や、災害時には情報を持ち寄る小さな防災拠点となりうるとしており、まさに店舗はそういったポテンシャルをもっていると同意できます。作品としては、例えばどんなテナントが入り、住まいや街との日々のつながり、災害時にどのような活動がなされるか、具体的な提案があるとさらに説得力のあるものになったでしょう。

渡辺さん・奥田さんの「木かげと広がる思いやり」は、独自のコミュニティを築いていた「木密地域」の魅力を、現在の住まいに取り入れた集合住宅の提案です。

建物の形態は水害を想定し、高床式に近いつくりです。2階から上はプライバシーが保たれ、防風林による緑豊かな居住空間です。反して1階は簡易な小舞壁を使ったセミオープンスペースで、普段から住民の趣味の場などとして町と敷地の接点になっています。災害時には自然と地域の核としての役割を担うだろうとしています。

魅力的なのは、集住する3世帯の構成です。1戸は学生のシェアハウス、1戸は老夫婦の住まい、1戸は子育て家族の家です。溜まり場のあるデッキを共有しつつ、適度にプライバシーを持ちながら暮らせるつくりになっています。異なる世代の3家族が、付かず離れず暮らす様子は、かって木密地域にあったような、お年寄りから若者・子供までの助け合いのコミュニティの延長です。災害時にも各々の強みを生かした助け合いが行われそうです。

廣川さんの「風通しのよい家」について

「建ぺい率分類化」という考え方を提唱しています。言葉はわかりにくいのですが、要は、各敷地に割り当てられている建築面積のうちの何割かを、住人のプライベートな場として囲い込まずに、屋根のある屋外スペースとしてつくり、視覚的にもスペース的にも街に解放しようというものです。塀など敷地同士のつながりを遮断するものも設けないよう提案されています。このVoidという名の屋外スペースは、大きなデッキのようなつくりとし、人々が集える場所としたり、子供の遊び場であったり、カフェであったり、また住民が自分の趣味の活動をオープンに行う場所であったりします。この分類化が街一帯で行われると、タイトルにあるような風通しのよい家、風通しのよい街となり、いつも人の姿や交流の見える日常が展開されそうです。

災害時、遮断されていない敷地は効率的な避難路として機能します。また、各戸のオープンな屋根下空間は、「避難Void」として避難所の役目を担うとし、平常時・災害時のフェーズフリーな展開が見えてきます。

こういった仕掛けを、街づくりの制度として取り入れようという提案が面白いと思われ、協会賞に選出しました。

3つの作品に共通するのは、家族を超えて、近くに暮らす人同士の関係性を重視したフェーズフリー住宅のあり方を示している点です。この点に注目する作品は少なくありませんでしたが、ハード面・ソフト面両方から、豊かな地域づくりと災害に対応する住宅を、より具体的に提案する作品を選びました。その中で甲乙つけがたい三作品を協会賞とさせていただきました。